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腎臓、透析、リウマチ・膠原病を専門とする内科医です。面白かった本や日々感じたことの他に、個人的に関心がある腎病理に関する論文なども紹介していきます。

【リラグルチドは FoxO1を介した腎臓内での酸化ストレスを減弱させることで腎保護作用を発揮する】

 インクレチン療法における蛋白尿抑制効果・腎保護効果に関してはとても興味深く、ここ5年ほどで様々なことがわかってきています。今日は新しめの文献からひとつ紹介します。


[原著]
Liraglutide ameliorates early renal injury by the activation of renal FoxO1 in a type 2 diabetic kidney disease rat model

Diabetes research and clinical practice 137 (2018) 173-182


[要約]
[Aims]
 2型糖尿病ラットにおける FoxO1の腎臓内での発現と腎障害に対するリラグルチドの作用を検討する。
[Methods]
 今回実験に用いたラットにおける糖尿病は、食事中の血糖負荷と高脂肪食、及び低用量のストレプトゾトシン30mg/kgの腹腔内注射によって誘発された。ストレプトゾトシンの注射から5週間後、糖尿病モデルラットはリラグルチド0.2mg/kg/12Hrを8週間投与する群と、投与しない群に分けられた。
糖尿病関連の生化学的データ、腎臓の組織学的なデータ、電子顕微鏡所見を集計したほか、腎臓内でのTGF-β、Fibronectin、IV型コラーゲン、プロテインキナーゼ B(Akt), FoxO1, そしてMnSODの発現量をReal time PCTとウエスタンブロットにて測定した。
[Results]
 糖尿病にしたラットのグループでは空腹時血糖の有意な増加やヘモグロビンエーワンシー一腎重量と比較した体重増加、血清クレアチニン、血中尿素窒素、尿中アルブミン排泄の増加が見られた。組織学的にはメサンギウム基質の拡大、基底膜の肥厚ポドサイトの足突起消失がみられた。また、腎組織内での TGF-β, Fibronectin そしてIV型コラーゲンのメッセンジャー RNA の有意な増加とmnsod の有意な低下が確認された。そしてこれらの所見はリラグルチドの投与によって有意に改善した。それに加えてリラグルチドは FoxO1のメッセンジャー RNA の発現を増加させ、また、腎臓内での AktとFoxO1タンパクのリン酸化を抑制した。
[Conclusions]
 これら結果から、リラグルチドは FoxO1を介した腎臓内でのMnSODの発現増加を介して腎保護作用を持つことが示唆された。

[用語解説]
FoxO1;FOXOタンパク質はforkheadドメインを有する転写因子群のOサブファミリーに属する転写因子(forkhead box-containing protein, O sub-family)で、FoxO1はその一つ。FOXO1は肝臓では糖新生酵素の調節を介して全身の糖代謝を制御している.膵臓ではPDX1やNeurogenin3の制御を介して,β細胞の新生,増殖,分化,脱分化を調節している.今後,FOXO1阻害薬が糖尿病治療に応用できるか大いに期待されている[生化学 第87巻 第2号pp.176-1822015)].

MnSOD; スーパーオキシドディスムターゼ (Superoxide dismutase, SOD) は、細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素。MnSODは活性中心にマンガン(Mn; 3価)をもち、ミトコンドリアに多く局在している。活性酸素を分解することで酸化ストレスを減少させ、細胞寿命を延ばす役割を持つ。

 

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(原文より引用)

リラグルチドを投与したラット(DN+Lira)は糖尿病ラット(DN)、メサンギウム基質の増加が少なく、電顕像でもPodocyteの足突起の構造がしっかり保たれています(=蛋白尿抑制効果)。

 

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(原文より引用)

リラグルチド投与群では、腎臓の皮質の組織内での尿細管上皮細胞の形質転換・線維化のマーカーの減弱や、活性酸素分解酵素のmRNA発現上昇が確認されました。

 

[所感]
Podocyteにおける酸化ストレスを減らし(MnSODの発現上昇)、かつ、尿細管萎縮や間質の線維化に関わるとされているマーカー(TGF-βやフィブロネクチンなど)の減少から蛋白尿抑制効果・腎保護効果を検証した論文です。実験手法としても糖負荷や脂肪負荷食などに低用量ストレプトゾトシンを打つというモデルで、Humanにおける2型糖尿病の発症に近いモデルだと思います。本研究におけるLimitationとしては、
[1]Humanの組織での検証がされていないこと(組織のサンプリングのハードルは高いですが。。)。
[2]腎臓の皮質をすりつぶしたライセートを用いてReal time PCRやブロッティングをしているので、どの細胞での発現レベル変化なのかまで詰められていないところ、などでしょうか。

同じインクレチン療法でも、リラグルチドのようなGLP-1アナログとDPP4阻害薬では蛋白尿抑制効果・腎保護効果がかなり異なることが報告されてきていますので、これはまた機会を見つけてご紹介したいと思います。

 

[今日のBGM] 今月、16年ぶりの来日公演があります。

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