イオン化カルシウム濃度
透析患者さんにおいては、透析前の補正カルシウム値が高いほど生命予後が悪いことがわかっています[Therapeutic Apheresis and Dialysis 2013; 17(2):221-228]。一方、低カルシウムでは筋けいれん、手足のつり、神経症状、不整脈など、高カルシウムでは血管の石灰化や動脈硬化の原因となります。
透析患者さんは食事制限や透析によってイオン化カルシウムが喪失したり、また高齢者は食事量が少ないためアルブミンが低値となることがあるため、血液検査で測定されたカルシウム値をアルブミンで補正した補正カルシウム濃度の値が用いられています。
血中のカルシウムの約半分は血中の蛋白質(特にアルブミン)と結合しています。実際に生理的作用を持つのはアルブミンと結合していないイオン化カルシウムです。
血液検査で測定しているのはアルブミンと結合したカルシウムの濃度であり、アルブミンが低値の場合はアルブミンと結合したカルシウムが減るため、測定結果のみでは低カルシウム血症と判断されます。しかし、イオン化カルシウムの値が正常であれば見かけ上の低カルシウムはあまり気にしなくても良くなります。しかし、その逆パターンである、補正カルシウムは正常範囲であってもイオン化カルシウムが低下している患者さんも一定数存在するのです。
大阪大学附属病院にて、血液透析が導入された患者332名を後ろ向きに検討し、透析導入直前のカルシウム濃度異常の頻度と、カルシウム濃度異常と透析導入後の総死亡および心血管疾患発症との関連を検討した報告があります[Sci Rep. 2020 Mar 10;10(1):4418.]。
この研究でとても驚きだったのが、補正カルシウム濃度で評価すると低カルシウム血症の患者は30%のみだったにも関わらず、イオン化カルシウム濃度で評価すると75%もの患者が低カルシウム血症を来していたことでした。つまり、全患者の46%が、補正カルシウム濃度は正常でイオン化カルシウム濃度は低値という’’隠れ’’低カルシウム血症を呈していたのです(図)
Sci Rep. 2020 Mar 10;10(1):4418.より引用
(実際の論文も’Hidden Hypocalcemia’という興味を引くタイトルになっています)。
さらに驚きだったのが、年齢、性別、心血管疾患の既往、栄養の指標といった交絡因子の影響を調整した解析でも、隠れ低カルシウム血症の患者はイオン化カルシウム正常の患者や明らかな低カルシウム血症の患者群に比べて、総死亡または心血管疾患発症の危険性が高いという結果でした!
Sci Rep. 2020 Mar 10;10(1):4418.より引用
この研究結果から、[1]透析導入期の患者さんにおいては隠れ低カルシウム血症の頻度が多いこと、[2]隠れ低カルシウム血症は透析導入後の総死亡または心血管疾患発症と有意な関連があることが明らかとなりました。
いつも測っている補正カルシウムが正常だから安心するのではなく、補正カルシウムが正常だからこそ一度はイオン化カルシウムも測って確認しないとなぁ、、と思いました。