ToSUe's Bibliothek

腎臓、透析、リウマチ・膠原病を専門とする内科医です。面白かった本や日々感じたことの他に、個人的に関心がある腎病理に関する論文なども紹介していきます。

【鉄 Navi in CKD -世界の流れに異論(IRON)を唱える!】

 タイトルからしてとても読み応えがありそうな本です(笑) 

鉄 Navi in CKD

鉄 Navi in CKD

 

-序文-より引用
鉄剤の投与に関して,鉄は生理的には過剰になっても排泄される仕組みがなく,鉄過剰では酸化ストレス亢進が認められるために注意が必要である.しかし,このような危険性は承知していても,継続して投与することにより貧血が大きく改善する患者も認められるため,どのような状態で中止すべきかどうか,必ずしも明らかになっていない. (中略) そこで、臨床家に参考となるよう、特に腎性貧血治療における鉄に関する客観的で不可欠な情報を提供する日本語の書籍が少ないため、本書を上梓することにした。


 序文にもある通り、(私個人としては)何度聞いても忘れてしまう鉄代謝のキープレーヤー達(とくにトランスフェリン、ヘプシジン、フェロポーチンetc..)の基本的な化学構造から化学的性質、発現量の調節因子までとてもわかりやすくまとめられています。これまで慢性腎不全 and/or 慢性炎症→血中ヘプシジン上昇→鉄の吸収低下と利用障害(囲い込み)と安直な覚え方をしていましたが、ヘプシジンの産生量調節に関わる具体的な遺伝子や分子、透析患者での血中動態など最新の文献も紹介しながら背景メカニズムについて詳しく解説してくれているので、ページ数の割に知識量はぎっしり詰まっていてとても勉強になりました。
 このように、鉄の吸収・分布(輸送)・利用(代謝)を理解した上で、「臨床現場で適切な鉄剤投与おこなうためにどのように考えれば良いか、といった具体的なアクションについてしっかりと解説されています。「KDIGO貧血ガイドライン」、日本の「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」の解釈の注意点も踏まえつつ、これまで明らかになったエビデンスと筆者が考える適正な鉄剤投与の方法論についての記載は圧巻でした。明日からの臨床に必ず役に立つと思いました。
(現実的ではないですが、経口鉄剤投与後のヘプシジン血中濃度ピークを意識した隔日投与の話[Lancet Haematol 2017;4:e524-e533]はとても興味深く読みました。)

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[今日のBGM] 大学生の頃、軽音でコピーしました。

クラウドベリー・ジャム

Youtube''cloudberry jam - this and that''で検索

 

読書紹介【破天荒フェニックス】

破天荒フェニックス オンデーズ再生物語  (NewsPicks Book)

破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 (NewsPicks Book)

 

内容(「BOOK」データベースより)

2008年2月。小さなデザイン会社を経営している田中修治(30歳)は、ひとつの賭けに打って出る。それは、誰もが倒産すると言い切ったメガネチェーン店「オンデーズ」の買収―。新社長として会社を生まれ変わらせ、世界進出を目指すという壮大な野望に燃えていたが、社長就任からわずか3か月目にして銀行から「死刑宣告」を突き付けられる。しかしこれは、この先降りかかる試練の序章に過ぎなかった…。

[所感]
池井戸潤風のビジネス小説仕立てにはなっていますが、ほぼ実話ということでリアリティをもって感情移入しながら読み進めることができます。度重なる資金ショートの危機は、読んでいるこちらが胃が痛くなるようなスリリングな展開でした。でも決して重すぎず、むしろとてもテンポがよく書かれていて、絶望・希望に一喜一憂しながら一気に読んでしまいました。読後にとても元気をもらえた本でした。

 

 [今日のBGM]  このアルバム、捨て曲なしです。

 Lean Into It

 Youtube; ''Mr.Big To be with you''で検索

 

 

【CKD-MBD 3rd Edition】

腎臓内科医にとってMBDを学ぶための教科書は?と聞いて真っ先に浮かぶのがこの本で、「CKDガイドブック」として親しまれてきた書籍の第3版です。

CKD-MBD 3rd Edition

出版社:日本メディカルセンター
深川雅史・監・濱野高行・藤井秀毅・風間順一郎・編


基礎研究や治療薬含め、この分野の進歩はめざましく、出る本出る本すぐに情報が古くなってしまっていました。この本は版を重ねるごとに新しい内容にアップデートされ、今回も基本事項から最新情報までとても詳しくまとめられています。特にKDIGOのガイドラインが変わった2017年以降のことにも触れられており、現状もっとも新しい情報が詰まった本です。

特に興味深かったのが、骨代謝の病態生理学的機序、尿毒症物質と骨、などのページです。

 骨芽細胞がどんなシグナルを受けて、どんな分子を介して石灰化をコントロールして骨量を増やしているのか、また、そのメカニズムにビタミンD副甲状腺ホルモン、FGF23等がどのように影響しているのか、大変興味深く読ませていただきました。
恥ずかしながらこれまで破骨細胞ばかりに目が行っていましたが、新しい視点を与えていただきました。 あと、この本ですごいと思ったのが、参考文献にはほぼすべてRCT、観察研究(前向き・後ろ向き)、総説、基礎研究などのカテゴリー表記があることです。このおかげで、知りたい内容によってどの文献から先に読むかなどの整理ができて、感動的でした。

他のページも、既存の内容でもプラスアルファの最新情報がちりばめられており、
改めて読んでも新しい発見がたくさんあってとても勉強させてもらいました。
やはり、良い本は、良いです。

 

[今日のBGM] なんでこんなにキレイな曲がかけるのか。。

Human Nature (Album Version)

You tube '' Michael Jackson human nature ''で検索

 

 

【糖尿病性腎症の診かた, 考え方】

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和田隆志・柏原直樹(編)
中外医学社

 

[所感]

 書店で目次を見て、基礎研究の知識から治療まで「一冊丸ごと糖尿病性腎症!」な内容に魅力を感じて購入しました。中でも白眉だったのが、[糖尿病性腎症の病理所見の定義]と[バイオマーカー]の章でした。

 病理の章では、病理専門書並みにしっかりと病変の成り立ちや背景分子から記述され、その臨床的意義の解説も非常に詳細で、孫引きしたい引用文献もたくさんありました。

 バイオマーカーの章では、尿中や血中で測定可能な臨床的なマーカーと、遺伝子などの基礎研究レベルにはっきりと項が分けて記載されていて、臨床で実用段階に入っているマーカーに関しては予想される腎臓の障害部位(糸球体or尿細管)など、病理所見を補完する記載もあり、病理の章とあわせて相補的内容で知識の整理にとても役立ちました。
 他にも、実臨床での薬剤選択のエビデンスや、チーム医療などの診療体制に至るまで章立てで解説されており、糖尿病性腎症を体系的に学ぶにはとても良い本だと思いました。

 

 [今日のBGM]  私の中で、「冬」を連想させる一曲です。

A Rush Of Blood To The Head

You tube ''Coldplay Crocks''で検索

 

 

【オンコネフロロジー -がんと腎臓病学・腎疾患と腫瘍学-】

 このところ、腎病理の研究会に参加すると必ずと言っていいほどの頻度で
抗がん剤使用後の腎障害の腎生検症例」のプレゼンテーションがあるほど[悪性腫瘍と腎障害]関連の話題は目にする機会が増えています。腎臓学会に参加してもやはり同様のテーマでのシンポジウムが毎回のようにあります。
 その背景として、分子標的薬も含めた各種悪性腫瘍に対する様々な薬剤の種類の増加に比例して腎障害の報告も増加傾向であり、腎臓内科医としても理解を深めて置く必要がでてきています。そこで、体系的に学べる教科書は何かないかと思って購入した一冊です。

原著タイトル『Onconephrology: Cancer, Chemotherapy and the Kidney』の翻訳版です。 

オンコネフロロジー がんと腎臓病学・腎疾患と腫瘍学

オンコネフロロジー がんと腎臓病学・腎疾患と腫瘍学

 

 悪性腫瘍と腎障害というと、
[1]悪性腫瘍そのものに合併する腎疾患(固形がんの膜性腎症や血液疾患のアミロイドーシスなど)
[2]癌化学療法による腎障害(白金製剤による尿細管障害、VEGF阻害薬によるTMAなど)
これら2つに大別されると思います。

この本では、それぞれの成因や合併する頻度、障害のメカニズム、症例提示、よく見られる病理像などがこれでもか!というくらいにまとまっています。

 先述のように、近年では分子標的薬の種類も爆発的に増え、腎臓内科としても[化学療法後のAKI]でコンサルトを受ける機会が増加しています。新薬の種類が多いだけに、相談のたびに「ええっと、〇〇という抗癌剤での腎障害の報告は、、、」とPubmedで慌てて調べる状態でしたが、この本では少数例報告も含めかなり最近の報告まで紹介してくれています。

勉強用にも、辞書的なものとしても、買って良かった一冊でした。

 

[今日のBGM] ボーカルは、やっぱり初代のほうが好きです。

EVERYTHING'S GONNA BE ALRIGHT

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