読書紹介【-リアルRPG譚- 行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険】
-リアルRPG譚- 行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険
- 作者: 春間豪太郎
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2018/03/20
- メディア: 単行本
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内容(「BOOK」データベースより)
きっかけは、八年前。当時は海外に興味なんてなかったし、危ないというイメージの方が強かった。ところが、突然親友のリッキーがフィリピンへ行ったきり、消息不明に…。そこから始まる、おれの冒険譚。エジプトの砂漠を渡るべく、ラクダ飼いの見習いになったら死にかけたり、モロッコを横断するため、変態ロバや番犬の子犬、小猫や鳥たちと行商したり…。行方不明の親友を探しに海外へ…からの大冒険!
[所感]
もともと沢木耕太郎の「深夜特急」に始まり、高野秀行の「幻獣ムベンベを追え」などの辺境探検ものまで旅・冒険紀行記が好きで読んでいましたが、今回もその流れの一冊です。
多くの場合、こうした旅は単独で、ないしは数人の屈強な男たちで旅をすることが多いのですが、今回はその土地で出会ったロバや猫、鶏などの動物たちを徐々に旅の仲間に加えていきながら一緒に灼熱のモロッコを横断するというお話です(それでリアルRPG譚というサブタイトルが付いたのか)。動物の描写がとても多いので(おそらくは道中の動物達の体調管理などに大変な苦労をしたことの裏返しだとは思いますが)、街や旅路の描写がやや薄くなってしまった感が否めません。ともあれ、かわいらしい動物たちがたくさん登場するので厳しい旅の途中でもほっこりとするような場面がいくつもあり、また、筆者の動物に対する愛情がとても素晴らしく、これまでの冒険ものにない爽やかな読後感がありました。
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[今日のBGM] 職場の忘年会の即席バンドで演奏したのを思い出します。元気が出ます。
You tube'' 東京スカパラダイスオーケストラ / 銀河と迷路''で検索
読書紹介【0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書】
0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書
- 作者: 落合陽一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2018/11/29
- メディア: Kindle版
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[所感]
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[今日のBGM] 冬を感じさせるバラードです。
【Review 日本人における糖尿病患者の冠動脈疾患のリスク】
[原著]
Fujihara.K
Cardiovascular Disease in Japanese Patients with Type 2 Diabetes Mellitus
Ann Vasc Dis Vol.11, No.1; 2018;pp 2-14
[Abstractより]
糖尿病を保有する患者は非糖尿病患者と比較し2-4倍の冠動脈疾患リスクを抱え死亡率も高い。微小血管だけでなく大血管疾患も 患者のQOL を著しく損ない死亡率を上昇させることに寄与しているため、糖尿病を管理する上でもそのリスクファクターを適切に管理することは非常に重要である。 ここ10年で、II型糖尿病治療において様々な新しい高血糖治療薬が認可され、糖尿病関連の合併症は世界全体においても減少傾向にある。しかし、近年の動向を鑑みると世界的にも糖尿病と肥満の合併が増加傾向にあり、日本においても食事管理や運動療法は糖尿病治療においてますます重要な位置を占めるようになる。患者個々における冠動脈疾患のリスクを正確に見積もることは大変重要であり、本レビューではその点にフォーカスを当てて日本人を含む近年の2型糖尿病における臨床試験やビッグデータを包括しながら論じていく。
[所感]
欧米、日本を問わず、今までの2型糖尿病関連の歴史(血糖・血圧・脂質コントロールや各治療薬)で把握しておくべき大規模臨床試験やコホート研究に焦点をあて(J-DOIT3まで入れてほぼ直近まで網羅されて)まとめられており、知識のアップデートに大変有用でした。
[今日のBGM] この曲のライブ。最高です。
Youtube; '' KEMURI Along The Longest Way''で検索。
【リラグルチドは FoxO1を介した腎臓内での酸化ストレスを減弱させることで腎保護作用を発揮する】
インクレチン療法における蛋白尿抑制効果・腎保護効果に関してはとても興味深く、ここ5年ほどで様々なことがわかってきています。今日は新しめの文献からひとつ紹介します。
[原著]
Liraglutide ameliorates early renal injury by the activation of renal FoxO1 in a type 2 diabetic kidney disease rat model
Diabetes research and clinical practice 137 (2018) 173-182
[要約]
[Aims]
2型糖尿病ラットにおける FoxO1の腎臓内での発現と腎障害に対するリラグルチドの作用を検討する。
[Methods]
今回実験に用いたラットにおける糖尿病は、食事中の血糖負荷と高脂肪食、及び低用量のストレプトゾトシン30mg/kgの腹腔内注射によって誘発された。ストレプトゾトシンの注射から5週間後、糖尿病モデルラットはリラグルチド0.2mg/kg/12Hrを8週間投与する群と、投与しない群に分けられた。
糖尿病関連の生化学的データ、腎臓の組織学的なデータ、電子顕微鏡所見を集計したほか、腎臓内でのTGF-β、Fibronectin、IV型コラーゲン、プロテインキナーゼ B(Akt), FoxO1, そしてMnSODの発現量をReal time PCTとウエスタンブロットにて測定した。
[Results]
糖尿病にしたラットのグループでは空腹時血糖の有意な増加やヘモグロビンエーワンシー一腎重量と比較した体重増加、血清クレアチニン、血中尿素窒素、尿中アルブミン排泄の増加が見られた。組織学的にはメサンギウム基質の拡大、基底膜の肥厚ポドサイトの足突起消失がみられた。また、腎組織内での TGF-β, Fibronectin そしてIV型コラーゲンのメッセンジャー RNA の有意な増加とmnsod の有意な低下が確認された。そしてこれらの所見はリラグルチドの投与によって有意に改善した。それに加えてリラグルチドは FoxO1のメッセンジャー RNA の発現を増加させ、また、腎臓内での AktとFoxO1タンパクのリン酸化を抑制した。
[Conclusions]
これら結果から、リラグルチドは FoxO1を介した腎臓内でのMnSODの発現増加を介して腎保護作用を持つことが示唆された。
[用語解説]
FoxO1;FOXOタンパク質はforkheadドメインを有する転写因子群のOサブファミリーに属する転写因子(forkhead box-containing protein, O sub-family)で、FoxO1はその一つ。FOXO1は肝臓では糖新生酵素の調節を介して全身の糖代謝を制御している.膵臓ではPDX1やNeurogenin3の制御を介して,β細胞の新生,増殖,分化,脱分化を調節している.今後,FOXO1阻害薬が糖尿病治療に応用できるか大いに期待されている[生化学 第87巻 第2号pp.176-1822015)].
MnSOD; スーパーオキシドディスムターゼ (Superoxide dismutase, SOD) は、細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素。MnSODは活性中心にマンガン(Mn; 3価)をもち、ミトコンドリアに多く局在している。活性酸素を分解することで酸化ストレスを減少させ、細胞寿命を延ばす役割を持つ。
リラグルチドを投与したラット(DN+Lira)は糖尿病ラット(DN)、メサンギウム基質の増加が少なく、電顕像でもPodocyteの足突起の構造がしっかり保たれています(=蛋白尿抑制効果)。
リラグルチド投与群では、腎臓の皮質の組織内での尿細管上皮細胞の形質転換・線維化のマーカーの減弱や、活性酸素分解酵素のmRNA発現上昇が確認されました。
[所感]
Podocyteにおける酸化ストレスを減らし(MnSODの発現上昇)、かつ、尿細管萎縮や間質の線維化に関わるとされているマーカー(TGF-βやフィブロネクチンなど)の減少から蛋白尿抑制効果・腎保護効果を検証した論文です。実験手法としても糖負荷や脂肪負荷食などに低用量ストレプトゾトシンを打つというモデルで、Humanにおける2型糖尿病の発症に近いモデルだと思います。本研究におけるLimitationとしては、
[1]Humanの組織での検証がされていないこと(組織のサンプリングのハードルは高いですが。。)。
[2]腎臓の皮質をすりつぶしたライセートを用いてReal time PCRやブロッティングをしているので、どの細胞での発現レベル変化なのかまで詰められていないところ、などでしょうか。
同じインクレチン療法でも、リラグルチドのようなGLP-1アナログとDPP4阻害薬では蛋白尿抑制効果・腎保護効果がかなり異なることが報告されてきていますので、これはまた機会を見つけてご紹介したいと思います。
[今日のBGM] 今月、16年ぶりの来日公演があります。
You tube'' Vanessa carlton Thousand miles ''で検索
リウマチ患者における生物学的製剤使用が腎予後に与える影響【Kidney International 2018より】
【原著】
Treatment of rheumatoid arthritis with biologic agents lowers the risk of incident chronic kidney disease
Kidney International (2018) 93, 1207-1216
【要約】
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis;RA)はその慢性炎症や治療に使用する薬剤の腎毒性の面から腎機能低下を起こしやすい病態と考えられている。
しかし近年発達してきた腎毒性をきたさない治療薬がRA患者の慢性腎不全のリスクを下げるかどうかについてはほとんど検討されていない。
これを検討するため2006年から2013年の間でアメリカにおける20,757人の eGFR 60mL/min/1.73㎡以上のRA患者のコホートを用いた。
生物学的製剤が CKD の進展をeGFRがベースラインより25%以上の低下をもってeGFR<45となること、eGFR 3以上の低下/年となることとそれぞれ定義し、生物学的製剤の開始されやすさでpropensity-matchした 患者群においてCoxモデルと多項ロジスティック回帰分析をおこなった。
20,7572の患者のうち 4,617人で生物学的製剤が開始された。これら患者群では生物学的製剤を用いなかった郡と比較し、 先程のCKD の発症リスクが有意に低下した(hazard ratios 0.95 and 0.71, respectively)。生物学的製剤で治療をされた患者群では eGFR の低下が有意に抑制された。すなわち、生物学的製剤の使用は CKD 発症リスクと、eGFR低下に対する独立した抑制因子と考えられた。
[所感]
生物学的製剤がRA治療の重要なポイントを占める昨今、本当にこれら薬剤が腎予後を改善するのか、という議論はこれまできちんとされていませんでした。今回の報告の結果を見るに、生物学的製剤が腎保護をするメカニズムとしてはシステミックな炎症を抑えるだけでなく、腎臓の局所的な組織内での抗炎症作用や腎臓固有の細胞に対するダイレクトな保護効果があることが示唆されます。
[今日のBGM] マイケル・ジャクソンのバックバンドで弾いてた人です。カッコいい。
You tube'' Orianthi - According To You ''で検索
【明日のアクションが変わる 補助循環の極意 教えます】
一冊目の著書である「明日のアクションが変わる 循環器救急の真髄教えます」に続く第二弾の書籍です。前作も膨大な情報を読者にすんなり読ませる文章センスで研修医から中堅クラスまで幅広い層に深い学びを与えるものでありましたが、今回の本はさらに発展した形で、IABPやPCPSといった循環器領域の必須体外循環について詳細なエビデンスを併用しながら、でもやっぱり基本はバイタルサインや血ガスの解釈が大切なんだよ、という著者の考え方や伝えたいメッセージがぎゅっと詰まった本になっています。
(症例提示では架空のDrたちの臨場感あふれるやり取りが、現場の「あるある」を交えながら展開します。この架空のDrたちがまた、、どこかで見たような人ばかりで。。教科書読んでるのに思わず笑ってしまいます。。)
私自身、 腎臓内科医として毎日のように透析を回していますが、逆に言うとそれ以外の体外循環には恥ずかしながらてんで疎く、何かそうしたものを系統的に学べる本がないかと思っていたところに、この本の登場でした。一冊目とともに、初期研修医から中堅までのすべての先生にお勧めいたします。
[今日のBGM] 二人組とは思えない分厚いサウンドです。
You tube''The White Stripes - You Don't Know What Love Is''で検索
緑茶ポリフェノールは抗酸化作用により高尿酸血症と腎血管障害を防ぐ働きがある
[原著]
Green tea polyphenols protect against preglomerular arteriopathy via the jagged1/notch1 pathway
Am J Transl Res 2018;10(10):3276-3290
[要約]
高尿酸血症による糸球体の血管障害は慢性腎臓病の進展因子である。 緑茶ポリフェノールは抗酸化作用により高尿酸血症を防ぐ働きがある。しかし緑茶ポリフェノールの腎機能に対する影響は依然として明らかにはなっていない。正常のラットと腎不全ラットにそれぞれ酸素毒性物質を注射し高尿酸血症と腎不全、腎血管障害(内腔狭窄)を惹起した. 腎不全ラットは同時に緑茶ポリフェノールを投与した。 腎不全ラットに緑茶ポリフェノールを投与した群では組織学的な糸球体の血管障害が軽減され、蛋白尿, 血中の尿素窒素・尿酸・クレアチニン値・活性酸素濃度が減少した。組織学的には腎組織内の各血管におけるJagged1/Notch1 の発現が減少していることが確認された。緑茶ポリフェノールを投与されたラットでは Jagged1/Notch1, Hes5,pSTAT3の発現がそれぞれ回復していた。そして緑茶ポリフェノールによるこれらNotchシグナル関連分子の抑制はsiRNAによって阻害された。これらのことから、緑茶ポリフェノールは 慢性腎不全の糸球体の血管障害において、Notch シグナルの発現を担保することによって活性酸素の発生を抑制し、血管障害を軽減することが示唆された。
(原著より引用)
[所感]
既存の腎不全(+高尿酸血症)モデルのラットにさらに酸化ストレスを惹起し、そこに緑茶ポリフェノール投与したらどんな効果があったかを検討した論文です。実験動物、培養細胞を用いて組織内での発現を免疫染色やin situハイブリダイゼーション、リアルタイムPCRと詳細に検討されています。本論文中の写真ではNotchシグナル関連分子の腎組織内での局在が血管内皮細胞や平滑筋細胞(中膜)にあるように見えましたが、この両者の培養細胞はハンドリングが難しいorサンプリングそのものが難しいため、細胞実験ではHK-1細胞(ヒト鼻咽頭癌上皮細胞)を用いて機能解析をしています。
Notchシグナルといえばpleiotropic(多面的)な機能を持つシグナルとして有名です。腎臓においては胎生期の発生段階の糸球体や、腎疾患の組織内(podocyte,ボウマン嚢上皮細胞 etc.)での発現およびその機能も多数報告されています。Pleiotropicの名の通り、腎臓の(細胞レベルでの)組織障害を促進する場合からこの論文のように抑制するはたらきまで様々です。ですので、Notchシグナルに関する論文が出たときはどっちのはたらきなのか、注意しながら読まなくてはいけません。
[今日のBGM] アメリカでホームステイしていたときに聴いてました。
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